デジタル時代の到来により、人工知能(AI)は私たちの日常生活のあらゆる側面に浸透してきました。AIは、現在では詩や音楽、絵画、小説、映像など、多岐にわたって作品を生成することができるようになりました。
しかしこれに伴い、AIが生成した作品の著作権に関する問題も浮上してきています。ここではAIが生み出す作品と著作権について知っておくべき重要なポイントを紹介します。
著作権とは何か?
公益社団法人著作権情報センターのサイトによると、「著作権」とは、「著作物」を創作した者(著作者)に与えられる、自分が創作した著作物を無断にコピーされたり、インターネットで利用されない権利のことです。他人がその権利物を利用したいときは、権利が制限されているいくつかの場合を除き、条件をつけて利用を許可したり、利用を拒否したりできます。
著作権法は、著作物を創作した者がもつ権利を保護するとともに、著作物の公平な利用を確保することで、文化の発展に貢献することを目的とする法律です。
著作者の権利や利益を保護するために制限を設けなければいけないのですが、その結果、使えなくなってしまっては著作者にとって利益にならないため、著作物を円滑に利用できるようにバランスを保つように制度が設計されています。
では、著作権法の対象になる著作物とはどういったものなのでしょうか。
著作権法における「著作物」とは?
著作権法における「著作物」の定義は次のとおりです。
- 思想又は感情を
- 創作的に
- 表現したものであって
- 文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの
逆に、「著作物」では以下のものは該当しません。
- 単なる事実の記載
- ありふれた表現
- 表現ではないアイデア(作風・画風)
アイデアが文章や絵として表現されて著作物になるのであって、形になっていないものは著作権法の対象になりません。
アイデアでも意味をなすものは特許ですが、特許も単なるアイデアではなく、実現可能で具体的な装置の構成まで特定できれば特許の対象になります。ソフトウェアはアイデアで特許になり得る分野です。
また著作権は、創作した時点で、著作者が何らかの手続きをしなくても自動的に取得できますが、特許は申請しないと取得できないのも大きな違いです。
著作権の侵害とは
著作物を利用する場合、著作権者から許諾を得ることが必要です。もし許諾を得ていない場合は、後で説明する権利制限規定に該当しないのであれば、類似性と依拠性の2つの条件を満たすと著作権の侵害になります。
「類似性」とは、文字通り似ていることです。似ていればすべて問題かというとそうではなく、ありふれた表現であったり、アイデアの範疇であれば、著作権の侵害には当てはまりません。
例えば、ピカソの抽象画を見てピカソの絵のような抽象画を書いても、雰囲気が似ているだけならばアイデアの範疇なので、著作権の侵害には当てはまらないのです。特に特徴のある作品に似た作風だとパクっていると思いますが、作風が似ているだけなら問題ありません。
「依拠性」とは、「既存の著作物に接して、それを自己の作品の中に用いること」とされています。すでに著作物を知っていたのかが問題になります。知っていなければその作品が生まれないほど似ているといった場合に著作権の侵害になります。
ピカソの例でいくと「泣く女」の絵を目にしたことはないし、その絵の存在を知らずに作ったものが「泣く女」の絵に似ているなら著作権の侵害にはあたらないのです。
著作権の侵害とはならない権利制限規定というのは、私的使用のための複製、引用、学校その他の教育機関における複製、非営利・無料・無報酬での上演などが該当します。
私たちが直接関連するのは、私的に利用するためにコピーしたり、コンテンツの引用などだと思います。ただ引用も解釈がむずかしく単なる引用は著作権の侵害になるので注意が必要です。
「著作権の侵害している」のではないかと疑わしくても侵害していると決めつけるのはなかなか難しそうですが、実際には、ネットなどでいったん著作権を侵害しているのではないかと疑われてしまうとかなり大きなダメージを受けることになります。
AIにおける著作権とは
最近、画像生成AIで大手出版社が作成したグラビアアイドルの写真集が販売された後、数日後には停止されました。
詳しい理由はわかりませんが、販売後に大きな反響があり、編集部の中でいろんな意見がある中で、より慎重に考えるべきだったということで判断されたようです。この中には著作権の問題もあるのではないかとの有識者の意見もありました。
AIを使って作品をつくるためには、まずはAIのソフトが必要になります。有名なところでは文章であればChatGPT、画像であればStable DiffusionやMidjourneyになります。これらのソフトは学習用のデータとしてWeb上にあるコンテンツを利用しているので、著作物も当然含まれてきます。
著作権法としては、AI開発・学習段階にあたるソフトを作成するまでに著作物を利用する場合の部分と、生成・利用段階のソフトで画像を作成し、できた生成物を公表したり販売したりする部分の2つに分けられます。
ChatGPTやStable Diffusion、Midjourneyを利用して作品をつくる人がほとんどですので、これらの人の場合は後者にあたります。
AIを利用して生成された作品が、著作権の侵害になるかどうかは、AIを使わずに通常の人が作品を作った場合と同じように判断されます。「著作権の侵害とは」で述べた「類似性」や「依拠性」による判断になります。
個人で楽しむレベルなら権利制限規定にあたるので全く問題がありませんが、これをアップしたり販売するとなると類似性や依拠性などによって著作権の侵害に該当します。
AIが出力した生成物が、既存の著作物と類似している場合は、そのまま利用することは避け、大幅に手を加えるなどの対処が必要です。
AIの生成物は著作物になるのか
ChatGPTやStable Diffusion、Midjourneyを使って生成された作品が、うまくできたときはこんなにすばらしい作品ができたと他の人に見せたいという気持ちはあると思います。
他の人がその作品を見てよいと思ったり、インスピレーションを受けたりすれば、似たような作品を作りたいと思う人もいるでしょう。その場合AIで作った作品は著作物にあたるのか、AIを利用して作品を作った人は、著作者といえるのかが問題になります。
ChatGPTやStable Diffusionは、あなたが作ってほしいイメージをプロンプトに文章を入力することで作品を出力します。
あなたがAIが出力したそのままを作品とした場合は、著作物とはならないとのことです。プロンプトに文章を入力してAIが自律的に生成したものは、「思想または感情を創作的に表現したもの」ではないという見解です。
同じプロンプトへの入力をしただけと言っても、入力した人が創作的に表現するために「道具」としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当しAIを利用した人は著作者になります。
私は絵が下手なので自分で書くことはできないけど、書きたい絵のイメージはあって、自分に代わってAIに注文して絵を作ってもらったのであれば著作物になるとのことです。
おわりに
AIが生成した作品の著作権の問題については、AIを利用しないで人が作った場合と今のところ大きな違いはないようです。意図的なのか偶然なのかはAIを使った場合でも、そうでない場合でも議論のあるところです。
現在は、AI利用については著作権のほかにもさまざまな課題があり、法的にも整備されていないため大きな話題になる可能性があります。それらの問題に巻き込まれないようにするためにも、AIが生成した作品をそのまま利用する場合は個人レベルでの利用にとどめ、そうでない場合はできるだけ大幅に手を加えるようにするなどの対応をしましょう。
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